クリアプラスのお気に入りはここ

日本ではアメリカより緩やかに進行しているが、バイオテクノロジーが切り開いたブレークスルーの影響は産業界でより明らかである。 大きな製薬会社はこれらの変化に適応するために医薬品開発にバイオテクノロジーを取り入れている。
大阪バイオサイエンス研究所のような新しい研究所も発展した。 しかしアメリカとは異なり、日本におけるバイオテクノロジーにはベンチャー型の研究活動が見当たらない。
この背景には産業界と大学の両者が終身雇用制であることをはじめ多くの要因がある。 日本は発酵工学の強い伝統をもち、製薬企業やバイオテクノロジーの分野でも成功してきたにもかかわらず、ベンチャー型の研究活動が存在しない。
ベンチャーが発展し、ゲノム情報とその知的所有権が重要な課題とかつてのコンピュータサイエンスと同様に、生物科学も「技術志向型の研究者」と生命の謎ときに迫る「ブラックボックス探求型の研究者」の2つのタイプに分かれつつある。 しかしバイオテクノロジーは、分子生物学研究の副産物であり、そのルートは大学における自由な生物学の研究に深く根ざしており、今後も大学から切り離しえない点でコンピュータ産業とは異なっている面がある。
また、人体への応用にあたり、厳密な安全性の確認を行うため、開発から製品化に至るまでの時間が長いことも特徴である。 したがって、大学と産業界がどのように実り多い協力関係を維持できるかは、これからの生命科学の発展にとっても産業界の発展にとっても大変重要でここで基礎研究に目を転じると、大学を中心とする研究体制が固定的であり著しく柔軟性を欠くことを指摘せざるをえない。
これは日本の主要大学が国の機関として運営されていることに関係がある。 また日本はこの30年あまり、教育と研究への基礎的な投資を怠ってきた。
そのため大学では必要な人員の不足や狭溢な施設の老朽化が進行した。 研究環境を大胆に改善し、大学のキャンパスに冒険的研究を行うベンチャー的なグループを形成し、創造的研究を展開する必要がある。

そのためには企業側の考え方の転換とともに、大学側も経営の心をもつことが必要である。 これは官尊民卑の土壌をひっくり返し、個人の自由な発想を発揮させる環境をつくるという、国の体質改善にもつながる歴史的課題である。
バイオテクノロジー分野においては、若手研究者の流動性を増すために、国の支援で産業界の協力により大学を中心としたポスドク制や若手研究者へのグラント制を創設することが望まれる。 の激しいバイオテクノロジーの分野において、すでに日本企業は新たな製品開発で困難に直面している。
アメリカのベンチャー企業との提携により問題は一時的には克服されるかもしれないが、日本社会が開かれた国際的な環境のなかで野心的、冒険的な研究に挑戦できる条件を育てることも大切である。 日本の大学に求められるものまた大学や研究所に寄付講座や寄付部門を設置し、先端的な基礎研究や基盤技術の開発を行うことも有効である。
さらに大学のキャンパスを活用して民間との共同研究を行うリサーチパークを設けることも期待される。 各大学の行う自己決定を尊重しつつ、これらの課題を速やかに達成すべきである。
大学と企業を結ぶ開かれた先端研究体制のもとで、生命科学と医科学は、情報科学と融合し、新しい物質化学とシステム制御技術を生み出し、人間の科学に基づいた新たな産業を開拓する可能性を秘めている。 日本の明日を担う創造研究大学の貧困化、陳腐化と創造的研究の立ち遅れが、若者の科学技術離れを促進し、日本の新規産業の発展にも深刻な影響を持ちはじめたことに対し、政府はようやく重い腰をあげた。
1995年に成立した科学技術基本法を受けて、1996年に科学技術基本計画が策定され、国をあげて積極的な取り組みがスタートした。 その結果、大型研究資金の導入、公務員の兼業や、起業の認可、大学キャンパスでの民間建物建築の許可など大幅に規制緩和が進み、日本の科学技術をめぐる環境は急激に変貌しつつある。

この機会を単なる一時的なバブルや、日本的村社会のボス支配の強化に終わらせないためにも、我々はどのような研究システムを作り上げようとしているのかを世界に明確にすることが不可欠である。 21世紀に向け日本の研究開発を世界最高水準に高めるにはいかにすればよいか、その基本戦略を考えるために1997年9月、K教授や私もメンバーである科学技術庁研究開発システム検討会(座長Ky大学Ny元総長)が開催され、さまざまな議論をもとに「夢と戦略のある研究開発システムをめざして」と題する報告書をまとめた。
報告書の冒頭で、「日本の科学技術の強化のためには、民間(産)と大学(学)と国(官)の研究機関の3つのセクターのバランスのとれた活動と相互の密接な協力が必要である。 しかしながら国の研究機関は、人材の流動性の欠如や、予算ならびに定員の柔軟性の不足、非競争的な環境など、国際レベルの創造的な研究開発の推進に対応できない多くの問題を抱えている」と指摘しているが、これはそのまま大学や民間の研究機関にも共通する問題である。
つまり「第3の流れ=日本の明日をになう創造的研究」を大きく豊かにするには、日本の開発システム全体の変革なくしては考えられない。 各論では、「人中心の国際スタンダードの創造的マネージメント」「ドクターコースの学生の研究機会の拡大」「ポスドク制の確立」など、優秀な研究者と技術者の育成・確保ということが適切に述べられている。
これらの人材は国内的には大学が最大の供給源である。 しかし、現在の大学の研究者養成システムが、大学院大学化の進行にもかかわらず、創造的研究開発システムの実現の障害になっているのが実情である。
その意味でも「第3の流れ」が成長するためには、「第3の流れ」に連携して、大学の中にもう大学科学技術基本法によれば、大学教官によるベンチャーの立ち上げや、大学キャンパス内に民間の研究棟を建設することができる教官の兼業が可能になったフリーゾーンバイオベンチャー(インキュベーター)をつくることが重要である。 その際、大学における研究と教育の継承性と学問の自由ということが議論の焦点となるであろう。
そこで留意しなければならないことは、大学の構造は一律ではなく、学部を中心とする比較的変わらないコアと、研究所群を中心とする柔軟に変わりうるシェルの二重構造から成り立っているととらえるべきであることである。 そして中核的研究所群からなる「第3の流れ」は、大学の柔軟なシェルの部分と積極的に連携して、その中に連携ラボなどをつくるべきである。
大学の中にこうした柔軟なフリーゾーンを形成しないと、人の流れが活発化せず、中核的研究所の人的資源が枯渇する危険がある。 また、研究者の育成・確保だけではなく、国際的スタンダードに見合った「新たな、魅力ある研究者のキャリアパス」を整備することも重要である。
大学・中核研究所・企業にまたがるフリーゾーンまた科学技術庁研究開発システム検討会の報告書は、民間との関係の分析において「ベンチャーへの挑戦は、科学技術のアドベンチャーでもある」ことを指摘している。